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京都地方裁判所 昭和55年(ワ)735号 判決 1982年1月26日

原告

近藤兵一

被告

杉山俊也

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自六四四万九九五六円および内金五八四万九九五六円に対する昭和五二年五月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らその余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自九二六万三一二五円および内金八四二万三一二五円に対する昭和五二年五月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告京和タクシー株式会社)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  本件事故の発生

1 発生日時 昭和五二年五月一三日午前七時五〇分頃

2 発生場所 京都市中京区三条通千本交差点

3 態様 同交差点を西に向つて直進中の原告運転の自動二輪車(以下原告車という)と同交差点へ東進して来て右折しようとした被告杉山俊也運転の普通乗用自動車(以下被告車という)が衝突したもの。

(二)  被告らの責任

1 被告杉山の責任

被告杉山は直進優先の原告車を無視し、かつ前方不注視等の過失により本件事故を惹起させた。

2 被告京和タクシー株式会社(以下被告会社という)の責任

被告杉山は被告会社の従業員であり、被告会社の業務に従事して被告車を運転していたものであるから、被告会社は運行供用者責任、使用者責任がある。

(三)  原告の受傷、治療経過および後遺障害

1 受傷

右下腿開放性複雑骨折等

2 治療経過

入院 昭和五二年五月一三日から同年六月一二日まで三九七日間

通院 同年六月一三日から同五四年一月八日まで(実治療日数一六六日)

3 後遺障害

症状固定 昭和五四年一月八日

右足関節拘縮による歩行障害

(四)  損害

1 入院諸雑費 二三万七六〇〇円

一日六〇〇円宛三九六日分

2 休業損害 五〇〇万円

原告は大工として日給一万円一カ月二五万円を得ていたが、後遺障害の症状固定時まで二〇カ月間就労不能であつた。

3 将来の逸失利益 八八三万八九九〇円

原告は大正一三年九月九日生の男子で就労可能年数は一三年であるが、労働能力の三〇%を喪失した。

4 慰藉料

入通院慰藉料 一六〇万円

後遺障害慰藉料 二〇一万円

5 弁護士費用 八四万円

(五)  弁済の受領 九二六万三四六五円

(六)  よつて原告は被告らに対し右損害合計九二六万三一二五円と内金八四二万三一二五円に対する本件事故の翌日である昭和五二年五月一四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因の認否および被告らの主張

(被告会社)

(一) 認否

請求原因中被告杉山が本件事故当時被告会社の従業員であつたことは認めるが、その業務に従事中であつたことは否認する。被告車は訴外田山幹夫(以下田山という)の保有車であり、同人はその以前に被告会社の車両と衝突事故を起したところ、被告杉山は被告会社に無断で被告会社の専属修理工場に被告車の修理を依頼して一旦その引渡を受けこれを使用した後本件事故当日出勤前に田山方へ届けるために運転中本件事故を惹起したものであるから、被告会社は責任がない。

その余の請求原因事実は全て知らない。

(二) 主張

仮に被告会社に責任があるとしても本件事故の発生については原告にも過失があるから過失相殺されるべきである。

すなわち被告杉山は本件事故現場の交差点手前で赤信号のため一旦停止し、対面信号が青になつてから時速約一五キロメートルで右折指示器を出しながら交差点に進入し、既にセンターラインを回つている状態にあつたとき、原告車がその進行方向を横切る形で直進したため本件事故に至つたもので原告にも前方不注視の過失があつた。そしてその過失割合は五ないし四割とみるべきである。

(被告杉山)

被告杉山は請求原因事実について認否をしない。

三  被告会社の主張に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  被告会社に対する請求について

(一)  本件事故の発生

成立に争いのない甲第六ないし第一〇号証および原告本人尋問の結果によれば請求原因(一)の事実を認めることができる。

(二)  被告会社の責任

被告杉山が本件事故当時被告会社の従業員であつたことについては当事者間に争いがない。

前掲の甲第八ないし第一〇号証および証人竹村久一の証言によると、被告杉山は被告会社の渉外係として事故の処理等の業務を担当していたものであること、被告車は田山の所有車であり、本件事故の一週間位前に被告会社の他の従業員が惹起した物損事故により破損したため、被告杉山が事故係としてこれを被告会社の取引先の修理会社へ修理を依頼し本件事故の前日その完成引渡を受けて一旦右田山方に届けたが同人が留守であつたため本件事故当日出勤途上届けるために運転中本件事故を惹起したものであることが認められ、右事実によれば被告杉山は被告会社の業務の執行中であつたものというべきであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法三条、民法七一五条により本件事故について損害賠償責任があるものといわねばならない。

(三)  原告の受傷、治療経過および後遺障害

原告本人尋問の結果およびこれにより成立の認められる甲第二、三号証によると、原告は本件事故によりその主張のとおり受傷し治療を受け、また後遺障害の診断を受けたことが認められる。

(四)  損害

1  入院諸雑費 二三万七六〇〇円

入院諸雑費として原告の請求する金額は相当である。

2  休業損害 五〇〇万円

証人藤田裕允の証言、原告本人尋問の結果およびこれらにより成立の認められる甲第四、五号証によれば、原告は大正一三年九月九日生の男子で大工として昭和五二年四月まで訴外岸田工務店こと岸田某方に勤務していたが同年五月一〇日から訴外土裕建設こと藤田裕允に雇われたこと、右岸田方に勤務中は昭和五一年度日額八〇〇〇円であつたが藤田方では日額一万円を得ていたこと、稼働日数は概ね一ヵ月二五日であつたこと、原告は本件受傷以来全く稼働していないことの各事実を認めることができる。

右事実および前示の原告の受傷内容、治療経過によれば、原告はその後遺障害が固定したものと診断された昭和五四年一月八日まで約二〇カ月間は本件事故のため稼働できなかつたものと認めるのが相当であるから、その間の休業損害は原告請求のとおり五〇〇万円となる。

3  将来の逸失利益 七九五万五〇九一円

前示の原告の後遺障害の部位、程度によれば原告はその稼働能力の二七%を喪失したものでその回復の見込はほとんどないものと認められるから、ホフマン式計算方法により中間利息を控除してその稼働可能期間(一三年間)中の逸失利益を算出すると次のとおりとなる。

1万円×25日×12カ月×0.27×9.8211=795万5091円

4  慰藉料 三六〇万円

前示の原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害その他の諸事情を総合して勘案すると、原告の慰藉料としては三六〇万円が相当である。

5  弁護士費用 六〇万円

本件事案の内容、審理の経過、本訴認容額等に照らすと、原告が被告らに対して弁護士費用として請求し得べき金額は六〇万円とするのが相当である。

(五)  過失相殺

前掲の証拠によると被告杉山は赤信号で一旦停止した後青信号に従い交差点中心付近で右折の指示器を表示しながら停止して対向の原動機付自転車をやり過し、後続車はないものと考えて右折進行したものであり、一方原告は三〇ないし四〇キロメートル毎時で本件交差点に至つたが対面信号が青であつたためそのまま進行し、被告車が右折する態勢であることに気づいたもののそのまま進行したものであることが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を左右するにたりる証拠はない。

右事実によれば、本件事故の発生については原告においても前方不注視の過失があつたものといわねばならず、その過失割合は被告杉山が九、原告が一と評価するのが相当である。

よつて前示の損害のうち弁護士費用を除くその余の損害について一割を過失相殺することとする。

(六)  損害のてん補

前示の損害に対し原告が九二六万三四六五円を受領したことは自認するところであるから、これを右損害額から控除する。

二  被告杉山に対する請求について

被告杉山は請求原因事実を明らかに争わないから民事訴訟法一四〇条によりこれを自白したものとみなされる。

右事実および前示の事実によれば被告杉山は民法七〇九条に基づき原告の損害を賠償する責任があり、その損害額は被告会社について説示したところと同一である。

三  結論

以上の次第であるから、原告の被告らに対する本訴請求は、前記一の(四)の損害に対して同(五)の過失相殺をした金額から同(六)のてん補を受けた金額を控除した六四四万九九五六円と内金五八四万九九五六円(弁護士費用を除いたその余の金員)に対する遅滞の後である昭和五二年五月一四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で正当であるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、注文のとおり判決する。

(裁判官 村田長生)

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